2013年08月号 書式書類はデジタルで
書式は手書きのためにある
仕事をしているとたびたび「書式」に遭遇する。あらかじめさまざまなサイズの枠が印刷されている書類に、氏名や連絡先といった各種情報を書き込むのだ。世の中、書式のない書類のほうが珍しい。
この枠は中を埋めるためにある。すべての項目について遺漏なく書き込むための入れ物が、この書式なのだ。
枠型の書式は見栄えがいい。文字が踊っていてもくせ字でも、ある程度整って見える。記入する人の個性を希釈して、統一感を生む。文字を手書きする正式文書なら、項目ごとに枠で囲った書式は合理的なのだ。
しかし今日、正式文書を手書きする機会はどんどん減っている。自筆を要する文書や、窓口などその場で手書きする場合を別とすると、業務上の書類のほとんどはデジタルで作成するのが常識である。
その際、枠型の書式は厄介だ。枠の位置に合うように各項目をMacで記し、プリンターに入れた未記入の書式書類に位置を合わせて印刷するなど神業に近い。きれいに仕上げるための労力や時間はムダである。
枠型の書式は、手書きのための道具であって、デジタル時代にはふさわしくないのだ。枠などなくして、各項目ごとに改行するなど、デジタルでも作成しやすいフォーマットにしてほしい。
それでも私は20年来、書式書類をMacで作成してきた。以前は私が提出した書類を見た事務スタッフが「わー、きれいですね。どうやって記入したんですか?」と驚いたものだ。すべて枠の中にフォントの文字がピタリと収まった完璧な出来栄え。とはいえ、たいした手間はかけていない。むしろ、手書きより楽をしている。
手順は簡単。未記入の書式書類をスキャンし、それをMacで開いて必要事項を書き込み、プリントアウトするだけだ。
スキャナーとプリンターはデジタルの入口と出口である。デジタルワークの必需品だ。'88年にMacを使い始めた私は、'93年に初めて自分のMacを買ったとき、同時にスキャナーとプリンターも購入した。
当時のスキャナーは300dpi。㈱エプソンのフラットベッド型だった。プリンターはHP製のデスクライター。4色インクのうちブラックが顔料インクだった。
現在、スキャナーは㈱PFUの「ScanSnap iX500」を使っている。書類の両面を同時に高速スキャンできるし、MacだけでなくiPhone/iPadからも直接スキャンできる優れものである。
まず、未記入の書式書類をスキャンする。600dpiの白黒モード。プリントアウトしたときに、元の書類のクオリティーを再現できる程度の高解像度だ。
スキャンされたPDF書類を「プレビュー」で開き、「編集」ボタンを押してから「テキスト」を選択。書式の中で文字を書き込みたい部分を範囲指定してテキスト枠を作り、そこに文字を記入する。それを項目ごとに繰り返して全項目を埋めたら、プリントアウトし、必要に応じてサインや押印をして完成だ。
テキスト枠は位置を自由に動かせるし、その中の文字は何度でも訂正可能。フォントの種類やサイズも好きなように編集できる。見栄えのするきれいな書類を、少ない手数で作成できるし、同じ書式で複数の書類を作るのも効率的。長年この方法で書類を作っているので、前年度に作った書類を編集して今年度版を作るのも簡単だ。
「原本」は顔料インクで
記載内容が短い項目ばかりの書類ならプレビューでいいが、複数行にわたる項目がある場合は、行間や文字間隔を細かく調整できるほうがいい。そこでPagesを使う。
スキャンしたPDFファイルをプレビューで開いたら、必要なページを範囲指定してコピーする。次にPagesを図形描画モードにしてペースト。縮小して張り込まれるので、「位置と回転インスペクタ」で「元のサイズ」をクリックしてサイズを原寸にする。「配置」メニューで「ロック」すれば固定されるので、あとは「テキストボックス」から各項目に必要な文字列を書き込み、位置やサイズを調整すればいい。同様のことはNumbersでもできる。
最近は、紙の書式書類ではなく、WordやExcelで作られた書式を受け取ることも増えてきた。多くの人はそこにそのまま記載していることと思うが、私はいったんPDFにしてから前述の手順で記入する。そのほうが文字位置などの自由が利き、仕上がりがきれいだからだ。
また、どうしても元の紙の書類に直接書き込む必要がある場合もこの方法を応用する。すべての項目を記載したあと、最初に張り込んだ書式のコピーを消去してしまうのだ。各項目に書き込む内容のみになったものをまず白紙にプリントし、紙の書式と重ねて透かして見て、位置が合うまで文字全体の位置を微調整したあと、紙の書式に直接プリントするのだ。
最後にこだわりのポイントをひとつ。完成した書類を印刷するときに使うプリンターだ。一般的なオフィスにあるレーザープリンターではなく、あくまでもインクジェットプリンタを使うのが私流。
レーザープリンターはコピー機と同じくトナーで印刷する。レーザープリンターで印刷すると、自分で作成した書類の「原本」なのに、「コピー」と同等のプリント品質に見えてしまうのだ。だから「コピー」ではなく「原本」としての書類を作るために、インクで印刷したい。
そのインクも、染料ではなく顔料インクがベスト。染料インクは水分に弱く、にじみやすい。顔料インクであればクッキリとプリントされて見やすいし、紙の上に水を流してもにじむことなく、印刷内容は定着したままである。最近私が使っているのはHPかキヤノンのプリンターだ。
Note Anytimeで手書きもOK
長年、このような方法で書式書類を作成してきたが、iPad/iPad miniを常用するようになり、大きな変化が訪れている。同じことがiPadだけでできてしまうのだ。
まずScanSnap iX500に載せた書類をiPadで直接スキャンする。ScanSnapのiPhone/iPad用アプリで「Scan」ボタンをタップするとWi-Fiで接続されたiX500がスキャンを始め、画像がワイヤレスでiPadに表示されるのだ。
それを㈱MetaMoJiの「Note Anytime」に送り、同社のスタイラスペン「Su-Pen」を使って文字を書き込む。手書きの筆跡でそのまま記述できるし、タイプしたり手書き文字認識によってフォント文字を記入することもできる。
MacやPCだけのデジタルワークフローには無益だと思っていた「手書きのための枠型書式」。iPadのアナログ感はデジタルを超越し、その価値を再発見させてくれる。